【試合後のインタビュー】
…「ここまで硬くなったのは久しぶり.
試合に入り込めなかった」などと,冷静に敗因を自己分析した.
「勝てるというのが少し見えたのがよくなかった.
勝たなきゃいけないというプレッシャーがあった」と錦織.
「(試合中)ずっと迷走している感じだった.
全く先が見えなかった.
正直,フェデラーの方がやりやすかったかもしれない」と,最後までペースがつかめないまま終わったことを悔やんだ…
………
まず,今回はフルセットの試合が数回続き,体力的にも相当きつかったと思います.
その部分を考慮してもやはり動きが硬かったですね.
やはり準決勝までの素晴らしいプレーとは別人のように見えました.
これは,浅田真央選手がソチオリンピックで見せた初日と二日目の演技の違いと同じ現象といえます.
どちらも優勝やメダルを意識し過ぎたことにより「今」に集中できなくなり,
恐怖と関わりのある脳の「扁桃体」が興奮し,交感神経の活性化を招いてしまいました.
なので,ここ一番では,「心・技・体」の中の技と体は完璧であっても
心による影響でパフォーマンスが100が10とかにまでパワーダウンしてしまうのです.
練習ではいかに本番さながらに練習ができるかが重要ですが,試合当日は嫌でも脳がかなり興奮している状態です.
その状態でさらに気合を入れてしまうと,集中を通り越して過覚醒になってしまいます.
今回の会見では,錦織選手は試合に入り込めなかったと述べていますが,実際には入り込みすぎたのだと思います.
つまり過緊張により,視野がかなり狭まっている状態です,
テニスではボールの動きと相手の動きの両方に集中しなければいけません.
つまり必要なのは,バスケットのフリースローやゴルフのパッティングのような狭い集中ではなく,広い集中なのです.
試合に入り込めなかった=集中力が足りなかった
と分析してしまうのは非常に危険です.
実際は,集中し過ぎてしまったことが考えられます.
過度な集中は,やがてピリピリやイライラにつながってしまいます.
ですので,やはり不安関連遺伝子の多い日本人アスリートは,白鵬関が取り組みに対して大切にしている言葉,
「稽古は本場所のごとく,本場所は稽古のごとく 」
のメンタリティーで挑まれることが理想的といえます.
これは,伝説の横綱,双葉山関の格言でもあります.
ですので一戦一戦,「勝ち」を意識することなく,「今」に集中することができ,
結果,素晴らしい連勝記録につながったのだと思われます.
今回,錦織選手の「フェデラーの方がやりやすかったかもしれない」という言葉は
脳とプレッシャーの特性から実に的を得た表現だと思います.
これは,過去の対戦成績やランキングによる前評判から自分自身の中で負けられない相手と認識してしまったことになります.
負けられない戦いと思ってしまうと過去の失敗体験が想起され,「扁桃体」が興奮してしまいます.
決勝当日の表情の硬さや動きの硬さ,これらはまさにこの思い込みが生んでしまった結果といえます.
勝てて当然=負けられない
という負のイメージ連鎖です
既述しましたように試合当日はかなり脳の覚醒は高まっています.
ですので,当日は,いかに「勝ち」を意識せず,適当にプレーできるかが重要になってきます.
適当にやるというくらいの気持ちでちょうど良い脳の覚醒水準になります.
「ゾーン」に入ったことのある選手のインタビューでは,皆一様に
リラックスしていた.流れるような感じだった.「今」に集中している感覚だった.自信に満ち溢れていた…
という表現をします.
そこに気合や根性は必要ないのですね.
コーチの「気合を入れていけよ!」という言葉が
実は最も選手のパフォーマンスを落としてしまう要因だとしたら恐ろしい話ですね.