「反応力」はどのスポーツ競技においても重要な要素であることは間違いありません.
ただ,スポーツで必要とされる反応力とは,1)素早く反応する能力と,2)素早く反応しない能力の2つになります.
どういうことかと言いますと,
通常,人の場合,視覚にまず情報が入ってきて,次にこの対象物に対して反応すべきか?否か?の選択が脳内で起こります.
野球で例えると,ストライクには反応してバットを振り,ボールには反応せずしっかりバットを振るのを抑えなければいけません.
こうした行動の促進と抑制は共に同じ前頭全皮質で行われている為,マシーンとは異なり,これらの作業は人間はとても苦労します.
ですので,ただ光った場所を触る動体視力トレーニングでは,全てのものに対して反応するトレーニング(全てストライク)となり,あまりスポーツにおいては実践的とはいえません.
赤い光には反応し,青い光には反応しないでくださいという事前アナウンスがあるだけで,反応速度は格段に落ちます.
それは既述しましたように,まずは視覚に入った対象物を選択するプロセスが前段階として入ってくるからです.
ですので,本格的な反応速度となると,
①ストライクか?ボールか?
②ストライクだ!
③ストライクだからバットを振ろう!
④実際にバットを振る動作
という一連のプロセス時間をいいます.
ちなみに③から④に移る過程で0.2秒かかります.
実際の野球の場合,ピッチャーの手からボールが離れ,バッターベースまで届くのに
ストレートなら約0.4秒,変化球なら約0.6秒と言われています.
つまり,脳内処理の関係でストレートだと思ってからバットを振りを完了するまでには約0.2秒しか時間が残されていないという事になります.
当然,目では追えません.
そのピッチャーのクセや雰囲気,配球ペース,状況などで多角的に判断する必要があります.
イチロー選手が引退する前年頃の成績不振時に「身体が反応してボール球でも手を出してしまうようになった」というようなことをおしゃっていましたが,
これは反応速度が上がったという良いイメージに聞こえますが,
実際は,反応してはいけない,つまり脳の抑制の部分の選択にミスが出始めたことを表しています.
将棋などでも経験の長い棋士よりも若い世代が強いのは,似た様な選択と集中の問題が少なからずあると思っています.
どうしても,集中,選択,反応,に関しては加齢の影響を受けてしまいます.
しかし,昔日の剣豪の話などを読んでいると,明らかにそうした能力以外の所(経験的に得られる何物か)で補っているように感じます.
脳内のシナプスは,その神経回路を使っていれば,どんどん枝分かれしていきます.
経験によるその枝の数の多さや,あるいはプロセスを素早く踏むための回路に関してはどんどん簡便化されていくことで,若い世代とはまた違った脳力があると私自身は信じてやみません.
⇒ 科学技術が発達した現在では,専用機器を活用した脳トレーニングにより,こうした脳内プロセスを向上させることが科学的に可能となってきました.