先日,茨城県東海村にある国立研究開発法人「日本原子力研究開発機構・核燃料サイクル工学研究所」様にてストレスケアに関する講演をさせていただきました.
講演会では,労務担当の皆様および,産業医の友常先生には大変お世話になりました.
当日は,約30名の現地職員の皆様と,Zoomにて200名前後の職員の皆様にご参加いただき,自分でできるストレスケアに関する理論と実践の情報を共有させていただきました.
当日の内容は,メンタルやストレスに関する講義に9割,実践は1割という時間配分で,具体的には,ストレスに関する生理学,メンタルトレーニングの歴史や現状,問題点,
呼吸と自律神経,扁桃体の特性とマインドフルネス,セルフケアの重要性と実践,といった流れでした.
漠然とストレッチや呼吸法で気持ち良くなってもらうのも体験型のワークショップとしては良いとは思うのですが,
それは既にどこでもやられていますし,一般の方が理論を学べる機会というのは実はあまりないと思っています.
そこで,自分が専門とする精神生理学に基づいた座学多めの内容とさせていただきました.
このストレス社会において,自分でできるストレス対処法,セルフケアは重要なウェイトを占めてくるといえます.
それには,理論が大事で,正しい理論に基づいて,呼吸法やヨガ,瞑想を行わないと,うまくストレスの緩和が行えた日と,そうでない日と,どうしても,ばらつきが出てきてしまうからです.
経験が長い方は問題ないですが,はじめのうちは感覚だけを頼りにやってしまうと,再現性が低くなってしまいます.
逆にきちんとした理論を持ち合わせていれば,フィットネス系のヨガを受講したとしてもメンタル面に効果が出るように自分自身でアレンジできるようになります.
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呼吸について考えた時,常に思うのが,日本に多い「呼吸は吐くことが大事」という偏った考え方です.
それはあくまでもリラクセーションの場合限定であり,活性化させたい場合は息を吸うことで,交感神経の活性化からイキイキさせることができます.
そもそも酸素とガスの交換という呼吸活動の面から考えても,吐く方が大事とはならないですよね.
さらに伝統的ヨガの哲学を学んでいれば,呼吸という活動は,息を吸うことで空気中のプラーナ(気)を体内に満たし,心身の健康につなげるという考えがあり,吸うことを軽視しないはずです.
実際,肺いっぱいに酸素を満たす完全呼吸法というものもあります.
息を吐くことを重視した概念は,禅文化からきていると考えられますが,
禅の技術自体は,インド,中国から日本に入ってくる段階で,かなりのものが失伝してしまっていると,私は思っています.
もちろん,日本では独自の禅文化として花開いたとは思いますが,それは禅自体の技術向上ではなく,
その精神性が,能や武道などの精神性と結びつき「芸道」という日本独自の文化の開花といえます.
心身鍛錬に関する技術に関しては,伝統的ヨガや,中国の仙道を超えることはないと思っています.
日本独自の肚(はら)文化も,失伝からの独自解釈路線といったところでしょう.
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鼻呼吸がよくて口呼吸が悪い,胸式呼吸は良くないというのも少し謎で,ヨガには口呼吸も胸式呼吸もたくさんあります.
実際に精神性,生理学的な変化に大きく関与するのは,呼吸の長さ,息を吸う吐くの比率,と呼吸のリズム,速さであり,口や鼻による違い,腹や胸による違いではありません.