あるYouTube解説動画で「自然が最高の脳をつくる」とのタイトルで解説されていました.
その中で,千葉大学が348人の被験者に対して行った研究によれば,都会を歩いている時と比べ,森の中を歩いている時の方が,コルチゾールの値が13.3%低下したとのことでした.
実際のこの書籍と原著を読んでいませんので,詳しい統計学的な有意さは分かりませんが,あくまで,この動画の内容だけを聞くと,にわかに信じがたい結果といえます.
というのも,コルチゾールはストレスホルモンと呼ばれ,確かにストレス時に増加するのですが,そのストレスレベルはかなり強度の高いものでなければ容易に変化しない傾向にあるからです.
私も一回ごとのヨガ介入前後の短期,それを一ヵ月間継続した前後の長期で,それぞれ唾液中のコルチゾールの変化を何回か計測したことが何回かありますが,びくともしないという印象です.
そして,運動でもオールアウトのような全力での運動を毎日行えば,ようやく一ヵ月後に少し増加しているというものでした.
ですので,今回のようなウォーキングほどの軽度の運動でさらに短期的な介入で変化したことに驚いた次第です.
まだ,唾液中のアミラーゼの方が自律神経系ですので,こうした変化には反応すると思います.
ただ,アミラーゼは,ストレスの指標として認める,認めないの論争はありますが…
今回の都会と森林歩行の違いは,心理的な効果だけでなく,都会のアスファルト上での足腰への疲労と土の上でのマイルドな衝撃の違いの差なども関係しているのかもしれません.
また,森林を歩くと,交感神経と心拍の活動も共に4%低下したと解説されていましたが,副交感神経が活性化したからといって気分がリラックスしているわけではありません.
「興奮レベルの低下=リラックス」というのであるならば,共に興奮レベルの低い「落ち着いた状態」と「落ち込んだ状態」の違いが説明できなくなります.
ですので,生理学的指標以外に,POMSやTDMSなどの簡便な気分指標,もしくはSTAIなどの不安検査も合わせて行った方が良いかなと思いました.
前回の記事でも書きましたが,人の研究は本当に難しく,何がストレスになってくるか分かりません.
例えば,脳血流を測定するセンサーが時間と共に皮膚にめり込んできて痛みを感じ,実験に影響を及ぼすことは,実際に実験を行う人たちはよく理解しています.
また,私がヨガの呼吸法の実験の際に,気分指標の値があまり改善していないことを不思議に思い,確認したところ,被験者たちは,あぐらの姿勢に慣れておらず,それ自体がストレスだったという事です.
その後,丸イスに変え,その下にクッションも敷きました.
座椅子にしてしまうと,背中が後ろで支えられ,眠気を帯びてくるのであまりお勧めできません.
また,3月,4月は,花粉症の時期と重なり,そもそも呼吸法が行えなくなります.
このように論文では確認できない,いくつものドタバタが,実際の実験にはつきものなのです.