ストレスプロファイル
本格的なメンタル強化に入る前に,自己の心身状態について精神生理学的に理解しておく必要がある.
人は,容姿や性格が個々人で異なることと同様に心身の状態,具体的には安静状態からストレス状態へと移行した際の脳活動や自律神経活動の変化パターンが大きく異なる.
脳のことでいえば,ストレスが加わることで,覚醒レベルが高まる者がいれば,逆に下がる者,ほとんど変わらない者など様々であり,
安静状態からの変化パターンだけで大きく8パターンあることが当研究所の臨床により大体分かってきた.
もちろん最も多いタイプは,ストレス時に覚醒レベルが高まり,不安やパニックを感じるタイプである.
しかし,残りの3,4割はそうではないパターンを示し,実に様々な変化を示す.
これが何を意味するかというと,巷でよく行われている本番前の深呼吸などのリラクセーション行為は全員に効果を発揮するわけではないという事である.
本番前のリラクセーションが有効なのは,ストレス時に覚醒レベルが高まるタイプのみ.
こうしたタイプは,高まった覚醒レベルを呼吸法などによって下げさせることで,リラックスと集中のバランスが保たれるようになる.
しかし,ストレス時に覚醒が下がるタイプの人がリラクセーションを行えば,さらに覚醒レベルが下がってしまい,集中力の低下を招いてしまう.
緊張という言葉は悪いイメージがあるが,何事もバランスが大事で程よく緊張(ベータ波)が混じっている脳波状態の方が,高パフォーマンス発揮につながりやすい.
もちろんアーチェリーやサッカー,ゴルフ,格闘技など,競技種目によって求められる,最適な覚醒レベルは異なってくる.
同時にインターバルや待機状態などの場面と実際のプレイ時とでは,また求められる理想的覚醒レベルは異なってくる.
さらにここに個々人の特性が関わってくるとなると,理想的なメンタルをつくり出すという事は,事前の分析なくして達成することはほとんど不可能なことがご理解いただけるかと思う.
大まかにまとめれば,ストレス時・低覚醒タイプには覚醒を高めるアクティベーションが必要であり,ストレス時.高覚醒タイプには覚醒を下げるリラクセーションを施すことで
リラックスと集中のバランスが取れた「理想的覚醒レベル(中覚醒状態)」に近づくことが可能となってくる.
この安静時とストレス時の脳,自律神経の変化パターンを見極め,脳のタイプ判別を行うものを「ストレスプロファイル」という.
ストレスプロファイルでは,脳波や自律神経分析などの生理学的検査に加え,
心理アセスメントを駆使した心理学的検査,クライエントへのインタビュー等,様々な角度から総合的に判断することで,より正確なメンタル分析を可能とする.
呼吸最適化プロファイル
その他の分析に「呼吸最適化プロファイル」がある.
これは,個々人の自律神経バランスを整えるのに最も適した最適な呼吸ペースを導き出す分析方法である.
我々の体内には心拍や血圧をコントロールしている心臓血管系システムなるものが存在し,このシステムは10秒に1回の周波数によって成り立っている.
自然界の法則により,同じ周波数が重なり合うことでそのパワーが増幅するというものがある(共鳴現象).
ざっくりいうと,10秒に1回の呼吸を繰り返し行うことで,心臓血管系システムがうまく機能し出し,結果,循環器系,自律神経系の機能改善へとつながるというものである.
10秒に1回の呼吸というのは,5秒で吸って,5秒で吐く呼吸ペースである.
このペースで呼吸をすることで,自律神経バランスを容易に整えることが可能となってくる.
実際に,センサーに装着した状態で呼吸を繰り返し行ってみれば1分もすれば自律神経のバランスが整ってくるのが分かる.
そして,この「呼吸最適化プロファイル」という分析方法は,その10秒に1回の呼吸ペースはあくまでも最大公約数的なペースであって,
個々人により最適な呼吸ペースは少しずつ異なるはずだという理論(実際に異なるので根拠)に基づいている.
具体的には,自律神経活動や,呼吸パターンを計測するセンサーを取り付けた状態で,10秒に1回の呼吸ペースを軸に,若干速めのペースから遅めのペースへと呼吸ペースを変化させていき,
その呼吸ペースごとの自律神経バランスのパワーの推移を確認していく.
こうした計測および分析によって最終的にその人にとっての最適な呼吸ペースが割り出されていくという訳である.
この分析には,経験が必要で,自律神経バランスのパワー値だけでなく,心拍や呼吸の同調率や,生データの波形の形から総合的に判断していく必要がある.
最適な呼吸ペースが判別することで,日常的にそのペースで呼吸法を行うことで,科学的に自律神経バランスが最適化された状態を再現することが可能となる.
この分析を行っておけば,ストレスによる自律神経失調症への改善や,日々の健康増進目的,あるいは競技現場,ビジネス現場などで大いに役立つことが期待される.
「セルフコントロールプログラム」と合わせて「呼吸最適化プロファイル」による呼吸分析を行うことで,普段のセルフケアとしても大変役立つものと自負している.